真里様今日もお美しい

1年生と一緒に再々履修の解析学の授業を仏頂面で携帯を弄り倒してただけで終え、チャリンコを飛ばして電車に飛び乗る。
定数係数線形微分方程式の解き方の証明なんて知ったこっちゃねぇんだ、今日は矢口真里様のファンの集いなんだよ。
わかったらさっさと出席とりやがれこの狸親父が。結局、出席表が回ってきたのは授業終了5分前だった。



千駄ヶ谷まで片道一時間半。東スポを隅から隅まで読みつくしても足りないほどの時間を窮屈な電車で過ごした。
それでも俺は笑顔だった。満面の笑みだった。東スポのエロ面をねっとり見ながら爽やかな笑みを浮かべていた。
なぜなら今日は真里様に会えるから。この電車のように窮屈な日常から解き放たれて真里様の笑顔に会えるから。



千駄ヶ谷NEWDAYSで買ったビールを飲み干しながら日本青年快感にたどり着き、厳重なボディチェックを受けて入場。
登場する真里様。流れる白いTOKYO。叫ぶ言葉は一つだけ。「めーぐる!オイ!めーぐる!オイ!」
ただただガムシャラに、白いTOKYOでロマンスを打っている時、その瞬間、俺は確かに解き放たれていた。
フラッシュバックする。部活は囲碁将棋同好会の幽霊部員、勉強もせず、かといって遊び歩いていたわけでもない空っぽの高校生活。
お金もない、力もない、ないないばかりでキリがない高校生活。そこから解き放ってくれたのはモーニング娘。だった。
いや、解き放ってくれたわけじゃない。あくまで一瞬だけ日常を忘れさせてくれていただけ。それで十分だった。
日常から解き放たれろっ・・・・!飛散しろっ・・・!俺っ・・・・!アカギしげるの境地っ・・・!



その後も真里様のクイズコーナーやお歌アリ、お誕生日おめでとうメッセージアリ、ヤス登場で泣き崩れる真里様アリ、
どれも素敵な企画ばかりであまりの神々しさに意識がぼーっとして眠くなってしまいました。
中澤さんのメッセージビデオの時の声が完全に朝方のキャバクラ嬢のようになっていて笑いました。
あれならいつでもスナックのママになれると思いました。
そして真里様との握手。緊張して3㍑は小便を漏らしましたね。「お疲れ様でした」と一言だけ言って目もあわせずに握手終了。
目を見てたらその場で卒倒してたでしょうからね。苦肉の策でした。真里様は顔が化粧でパリパリでした。



夢見心地で電車に乗り込む。日常生活の事なんて全て忘れて。そんなナノレベルの事を考えてる暇なんてない。
解き放たれるんだ、俺は。解き放たれていつの間にか医者になって、弁護士になって、医者で弁護士になって、
テレビのコメンテーターになって、よくわからない額の金を稼いで5カ所の山荘、7カ所のマンションのほかに複数の土地、家屋を所有して
スイス銀行に口座を5つくらい開いて俺の後ろに立つなっ!と叫んだりして、アイドルと熱愛発覚しちゃったりして
単なる友人とかいいわけした直後に相手の家で5時間くらいプレステやったりしたり、
義理の姉にナデナデしてもらったり、義理の妹と一緒にアイス食ったりいろいろ贅沢するんだけど、
最終的にはそれらを全部捨てて本当に解き放たれて輪廻から解脱しちゃって、涅槃で待つと言い残して
輪廻からは解脱してんだけど鈴音からは解脱せずに宇宙が消滅するまでどこかで二人でひっそりと暮らすんだ、ふふふっ・・・ふふっ・・・
と帰りの電車の中で小一時間今夜もうさちゃんピースを聞いてたんですけど、
気が付いたら隣に座っていた酔っ払いのおっさんがしなだれかかって来ていて上着にベッタリとおっさんのヨダレがついていました。
終着駅に到着して、現実に引き戻された時に俺に残されたのは
上着に付着したおっさんのヨダレと脂汗、それと明日提出の実験の課題だけでした。



完全に提出日を忘れていました。どうすんだよコレ!もうマジで!矢口とかどうでもいいんだよ!
あああもうダメだ。もうダメなんだよロック。騎乗位だ、騎乗位なんだよロック。