10期バスツアー日記~輪廻の輪編〜

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スタンドアローン

昼飯を食いすぎてオネムになってしまった俺が車中でウトウトしているうちに、バスは最後の目的地、河口湖ステラシアターに到着しておりました。時刻は確か15時くらいだったと思います。我々は「さあ!お待ちかねのライブです!」と添乗員に言われバスを降ろされましたが、いつライブが始まるのか、それはどれくらい続くのか、会場内の気温はどうなのか、といったような情報は一切与えられませんでした。俺は真冬早朝の河口湖ステラシアターの寒さを痛感した事があるので上着を持っていきましたが、その時点での気温は「まあ、これならライブで動けばなんとかなるかな、日が暮れる前に終われば」という感じでしたので上着を持っていかない人もそれなりに多くいるように見えました。昼下がりの気怠い空気とよく晴れた空を覚えています。ライブがいつ始まるのか分からないので皆さんいそいそと会場に入場しているようでしたが、俺はどうもそういう気分になれず、バスから降りるとひとつ伸びをして、ゆっくりとトイレに行き、一服しながら会場に入っていく人波を見ました。「バスツアー、終わっちゃいやだよぅ!」という駄々をこねる幼児のような気持ち、というワケでもありませんでした。むしろ終わりをしっかり見届けて酒でも飲みに行きたい、と思っていたのですが、どういうワケかあまり会場にすぐに入る気分にならなかったのです。f:id:nakashima777:20171202065034j:image

 意を決してやっと会場内に入るともう既にほとんどの人が入場した後で、皆さん推しカラーのTシャツやバスツアーグッズのパーカーなどを着用してライブが始まるのを待っている状態でした。客席の中盤くらいの自分の席に着き、少し客席を見回した所、なんだか少しいつものライブ会場と違う空気を感じました。このライブは基本的に全員単番なのです。一人一人別々にくじを引いて当たった席で入っているので「友達と連番」が出来ない。もちろん友達と連番する為に席交渉をする、という事も可能ではあるのですが、少なくとも俺が見た限りではそれをしている人はあまり多くないように感じました。我々は一人でこのライブに向き合うのです。10期メンバーが10期メンバーだけで歌う、現役では最後のライブ。半野外会場の寒風に耐えていると、ライブが始まるようでした。

前世の記憶

  1. 青春ど真ん中
  2. 私のでっかい花
  3. 悲しき恋のメロディ
  4. グルグルJUMP
  5. 恋のテレフォンGOAL
  6. 私の時代
  7. 好きな先輩
  8. 青春コレクション
  9. 自信持って 夢を持って 飛び立つから

 

一曲目の青春ど真ん中のイントロが会場に流れた瞬間、前世の記憶がフラッシュバックしました。俺がまだ「ガチ恋おじさん」になってしまう前、ただ無軌道に無職を続けながら「いやー、やっぱ結局モーニング娘。だし910期いいよねー」などと大学時代からの悪友とモーニング娘。オタクに出戻りしはじめていた2012年秋の記憶です。カラフルキャラクターでこの曲を歌っている工藤遥の姿が、地獄の業火に焼かれてトロケ始めた俺の脳の片隅に一片残ったその記憶が、青春ど真ん中のノーテンキなイントロで引きずり出されたのです。私のでっかい花ではこれを歌ったエヴォリューションの時の心を掻き毟られるようなツライ記憶が呼び覚まされました。その後の一曲一曲にも全て「この日ここでこれを歌う理由」みたいなモノが分かりやすく込められているセットリストで、その歌を歌っていた当時の記憶が鮮明にフラッシュバックして来て、さながら走馬灯のようでした。

三曲ほど歌って始まった短いMCでは「この会場は寝起きドッキリやエヴォリューションの最終日で使った会場だ」みたいな事を言っていた記憶があります。その時に「こんな事なら寝起きドッキリでもらったモーニング娘。と書かれた赤いハチマキ持ってくれば良かった。今しか使い所ないのにアレ」と思ったのを覚えています。新春ドッキリの収録の記憶がそこでフラッシュバックしました。その頃にはもう「ガチ恋おじさん」になってしまっていて、隣の席に居た「いろはすが飲めなくなった男」に満面の笑みで手を振る工藤遥さんに対して「何故俺には振ってくれないんだ!何故!」という思いを強烈に感じた事を思い出しました。もう一度同じ場所が使われたエヴォリューションの最終日は「どうせ俺なんか誰にも愛されない期」真っ盛りで、開演前に駐車場でコークハイを飲みまくり記憶を無くすほど飲んで公演中にトイレに何度も行き、挙げ句の果てに会場内の売店で売られていたポップコーンを買って席に戻ってきた、という記憶が戻りました。戻る記憶戻る記憶ろくなもんじゃない。今思い返すと本当にろくなオタクじゃない。今もろくなもんじゃねえけど、あの頃は本当に危険な領域でろくなもんじゃなかった。あんな状態の俺を工藤さんはその異常な優しさでもって辛抱強く相手にして下さいました。今こうしてなんとかあの頃への謝罪の気持ちを感じる事が出来る精神状態にまで回復出来たのは本当にあの異常な優しさのなせる業だと思うのです。あんなオタクなんてあの時あの辺で切り捨てちまえば良かったのに、と今でも思います。まあ、俺が何度切り捨てても立ち上がってくるので諦めただけなのかもしれませんが、しかしそれにしてもなかなか出来る事じゃないですよ。これはもうアイドルがどうこう、というよりあの人の人間性の凄さのような気がします。俺がもし、工藤遥以外のアイドルに恋をしていたら、と思うと身の毛がよだつのです。あの時の俺があのまま突っ走って切り捨てられた先に待っていた破滅を考えると恐怖で身震いします。

天国の住人

俺にはもうまともなライブレポなど書けないのです。当日は脳に直接電極を差し込まれて過去の記憶をリアルな映像でフラッシュバックさせられ続けているような状態で、それでもなんとかステージにいる工藤遥さんを網膜に焼き付けるのに必死で、もう細かい事などなんにも覚えてはいないのです。申し訳ありませんが、他のバスツアーライブレポや、そのうちファンクラブで高値で発売されるであろうバスツアーの映像作品を観て頂くしかありません。とにかく、10期メンバーに少しでも思い入れがあるならば、最高のライブだった事だけは保証致します。

ライブの中盤辺りに、工藤遥さんへのサプライズでバスツアー参加者の中から選ばれた人がステージに上がってメッセージを読む、というコーナーがありました。4人か5人の人物がステージに呼ばれ、メッセージを読みました。前日のバス車内で「メッセージを読みたい方はメッセージを書いて提出して下さい、こちらで代表を選びます」という告知があり、それに立候補した人の中から選ばれたようでした。知り合いの中には超長文のメッセージを書いて落とされ「なんでだよ!」と激昂していた人もいますが、俺はそもそも立候補しませんでした。握手会ですらマトモに話せないのにステージに上がって衆人環視の中工藤遥さんへメッセージを伝えるなんて事になったらリアルに心臓が口から飛び出て死ぬか、酒を飲みすぎて急性アルコール中毒で死ぬかする未来しか見えなかったからです。そういうワケで壇上に上がった人達は、もう既に「立候補している」という時点で尊敬の対象なのですが、このメッセージを読んだ方々がどれも非常に「良い」メッセージで「ああ、この人達は天国の住人なんだな」と思いました。俺のような地獄の鬼とお友達の人間とは何か根本的に違うのではないか、と思いました。地獄の住人的には「ホントかよ!全員事務所が仕込んだ劇団員じゃねぇのか!」というくらいまっすぐで「良い」メッセージばかりだったのです。もちろん、事務所側がメッセージを読んで選んで前日練習までしていたようですので、ある程度は「良い」メッセージを選別しているのですが、それにしても全員「良」かった。「とりあえず練習まではやっといて本番で急に打ち合わせに一切ないメッセージを言う」という事も余裕で出来るはずなのです。壇上にさえ上がってしまえばほぼ検閲は意味をなさないのではないか、と俺は実際に見るまでは本当にそう思っていました。しかし実際に読まれたメッセージには「苦悩」も「苦痛」も「不安」も、俺が工藤遥に向き合う時に感じる負の感情の一切が無く、ただ「希望」や「応援」や「感謝」が素直に書かれ、それをみなさんが堂々と読み上げて工藤遥に伝えていたのです。もちろん、ネガティブな感情をあの場で工藤遥に伝える事に何の意味も無いし、俺がもしメッセージを読まなければならなくなっても、出来るだけネガティブな感情は排除した文章を書くとは思いますが、それにしてもあそこまでのモノが書けるのは普段から負の感情が一切ない、もしくは非常に少ないとしか思えないな、と俺は感じたのです。俺には絶対に書けません。ああいう文章を真似して書けば書くのは書けるのでしょうが、それを読み上げてしまうと、やっぱりどこか違うものになると思います。俺はああいう「良い」「正しい」オタクになれない事にずっとコンプレックスを抱えていました。サプライズメッセージを聞く河口湖ステラシアターを見渡すと、この会場に自分がひとりぼっちになったような気がしました。客席のほうぼうからすすり泣く声が聞こえ、ステージ上の工藤遥さんも泣いていましたが、俺は乾いた目でどこか遠くを見つめていました。サイド的にメッセージを読んでいる間ずっと工藤遥さんの後頭部が見える位置だったのもあるかもしれません。俺は工藤遥のつむじを乾いた目見つめ続けました。

地獄の先

気が付くとライブは終わっていました。ラストの自信持って 夢を持って 飛び立つからは10期メンバーのオーディションの時の最終課題曲で、これはパフォーマンスとしても非常に良かったです。オーディションの時の映像と見比べる、みたいな楽しみ方もあるし、単純に曲自体が高橋愛の卒業ソングなので歌詞の内容もそういう感じだし、何よりメンバーの感情がガツンと出ていて、人間の感情の大方の部分を失くしている俺ですら「あら、いいですね」と思う良さがありました。ライブが終わるとお見送り握手会があるようでした。握手会の準備をしている間、日が暮れて寒風吹きすさぶ客席で我々は待機させられました。これが本当に寒かった。Tシャツの上にパーカーと上着を着ているデブである俺でも「ちょっとこれは本当に寒いな」と思うほどの寒さでした。Tシャツ一枚の人はもとより、Tシャツの上にパーカーを羽織っているだけ、みたいな人もかなりツラかったと思います。「冬山に軽装で来ちゃった人」「フジロックにTシャツ一枚で来ちゃった人」みたいな感じでブルブル震えながら握手待ちをする客席が印象に残っています。

俺のいたブロックは握手が比較的早く出来るゾーンだったので列に並びました。例によって例のごとく握手で何を言ったらいいのか全然分からなかったので「楽しかったです、ありがとうございます」これだ、これで行こう、と思いました。これで行ったのは良いのですが、俺が思っていたより握手の時間が長かったので変な空白の時間が全員と出来てしまい、全体的にツライ仕上がりになってしまいました。飯窪さんは「楽しかったです、ありがとうございます」と言ったらサムズアップしてニコリとしてくれたのですが、そこから俺が何も言わなかったせいで2秒くらいサムズアップしてニコリとしている飯窪さんの顔を無言で眺める謎の時間が出来てしまいました。その次が確か石田亜佑美さんで、石田さんにも同じセリフを言ったら「本当ですか?楽しかった?本当に?」と何故か俺が楽しかった事を疑われているようだったのですが俺は無言で小さく頷いただけだったのでもしかしたら楽しくなかったと思われたかもしれません。石田さん、俺めちゃめちゃ楽しかったです。その次の佐藤優樹さんはとにかく寒そうにしていたのですが、同じセリフを言ったところ小さく頷いてポーンと手を投げられたので「うむ!」と思いました。工藤遥さんとは全く内容の無い握手をしました。

 

とにかく寒さが凄かったのでそのままダッシュでバスに戻りバスの暖房で暖まりました。文明すげーーー!と思いました。すぐに酒を飲みたかったのですが、あいにくこの日は一日酒が補給できる機会が無かったので切らしてしまっていました。握手を全員が終えるまであと30分以上はかかりそうだったので、近所に酒が買える場所がないか少し歩いて探して見たのですが辺りには本当に何もなく、自販機で温かいコーヒーを買って喫煙所へ行きました。喫煙所は握手を終えて出てくる人達の列に近くだったので、出て来る人たちをボーッと見ながらタバコを吸いました。俺が握手した時は全然泣いていなかった工藤さんでしたが、後半はボロ泣きしていたらしく、握手から出てくる人たちも特に若い女の人は泣いている人が多かったように思います。結局全員が握手し終わったのは予想通り30分以上後で、俺はバスでボーっとしていたのですが、結局涙は出て来ませんでした。バスツアーが終わってもまだイベントが残っていたし、それにまだまだ、終わるという実感が無かったからだと思います。もしくは涙腺が壊れていて涙を分泌できなくなっているのかもしれません。帰りのバスでは前日に撮った写真が配られました。「家族写真」を見つめる俺の顔は「虹村父みたい」だと形容されました。
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輪廻の輪

11/9の話はこれで終わりです。現在、バスツアー30日目の世界に俺は生きています。永遠に続くと思っていたバスツアーもブログを書き終えてしまう事で一区切りつこうとしています。俺は地獄から這い出して来世に向かわなければならないようです。まだまだ到底この輪廻から解脱出来そうにはないのです。バスツアーが終わってからの30日間にも「最後の個別握手会」や「最後のツアーホールラスト」などのイベントがあったのですが、結局俺はバスツアーのライブ中に脳に電極を刺されながら感じた工藤遥さんへの「謝罪と感謝」を繰り返し思うのみでした。

最後の個別握手会、泣いている工藤さんを見て言おうと思っていた無難なセリフが飛んだ俺から自然と出て来た言葉は「この数年、色々とご迷惑をおかけしたと思うんですけど、なんか、すんませんでした」という謝罪の言葉でした。これが自然に出て来たのは自分でもびっくりしましたが、バスツアー日記を書いてみたらある程度必然で出て来たのかなあ、と思いました。ホールラストでのMCで工藤遥さんは「皆さんも幸せになって下さい。頑張ってください。私も頑張ります」と言いました。幸せにならなければならないと思いました。きっと「最後の全員握手」も「最後のソロイベント」も、そして武道館の「アイドル工藤遥の最後」も、それを思うのだと思います。

孤独で寂しく愛がない生活を送っていた俺に、愛を教えて下さいました。はじめて見るそれの扱いが分からなくて戸惑い、困惑し、絶望してしまいました。人に優しくした経験も、優しくされた経験も乏しかった俺は、工藤さんの優しさを理解するまでにかなり時間がかかってしまいました。でもなんとかギリギリ、本当にギリギリ間に合いました。俺はこの世界にある「優しさ」をやっと信じられるようになりました。まだ半信半疑ではありますが。孤独なおじさんが孤独だからといってふさぎこんでいたらますます孤独になるだけなのです。孤独になるには色々な要因があるし、自分ではどうしようもないものもあるだろうし理不尽な事だってあると思います。人それぞれ理由があって孤独になっていると思うので、誰にでも通用する解決策は無いと思いますが、でも、確かな事は孤独だ孤独だと叫んでいてももっと孤独になるだけだ、という事です。すぐには変われないし、もしかしたら一生、本当には変われないかもしれないけれど、それでも「いつか工藤遥みたいな優しい人間になりたいな」と今ここで思えた事で、今後の人生が確実に少し変わるような気がしています。工藤遥さんがこれを天然でやったのか、あるいはある程度彼女なりの考えがあってやったのか、それとも、全て俺の勘違いで本当はそんな事工藤遥さんは微塵も思ってない、俺にだけ見えた幻なのか、どれなのかは少なくとも俺には確かめる事が出来ないのですが、しかし、そのどれであるのかはあまり関係ないと思うのです。俺は「俺が優しい人間になりたいな、と思ったきっかけが工藤遥さんだった」という事だけ胸に刻みつけておけばそれでいいのではないかと思うのです。

 

というワケで俺は最終的に工藤遥そのものになります!今は転生したばっかのよちよち歩きの赤ん坊なのですが、ここから驚異的な優しさの伸びを見せていきたいと思います!よろしくな!とりあえず乳児には母乳が必要なので吸わせてくれる方募集してます!ママーーー!!