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全国同時握手会2016秋 後編~ずぶ濡れアンダードッグ編~

城のような魚民で晩酌を

 宿をとっていた水戸に着いた頃には既に車に乗り続けて24時間以上が経過しておりました。ドライバー含め、俺以外の同乗者の方々も疲れておりました。ただ俺はアルコールのチカラで少しだけ他の方々よりも元気がありました。チェックインを済ませ、部屋に入ると、狭い部屋にセミダブルのベッド、おじさん二人部屋です。そりゃそうです。そう予約したのですから。妙に安いからおかしいと思ったんですけど、特に何も見ずに予約してしまいました。公衆浴場に入れない心の闇を抱えた同室のおじさんは、ここで久々に風呂に入られていたのですが、その足が臭い、あまりにも臭かったです。普通「足が臭い」っていうと、なんていうかこう「ちょっと酸っぱい匂い」みたいなものを想像すると思いますが、そんなもんじゃなかった。なんのニオイなのかしばらく全く分からなかった。「えっ!?毒ガスどっかから漏れてる!?」と思いました、俺は本気で。いや、俺自身もね、おじさんですしね、多少の足の臭さ、特に旅に出てる時の体臭なんてのはね、あって当たり前だし結構我慢出来る方なんですよ。それでも無理だった。あまりの臭気に嘔吐しそうになったのでタバコに火をつけました。ちょうど他のホテルに宿泊していた知り合いから飲みに誘われたので、これ幸いとホテルを抜け出し飲みに行きました。少し飲み足りなかったのもあります。閑散とした夜の水戸駅前を少し歩いて、南口に続く橋の上で夜空を見上げ物思いに耽りながらタバコを吸いました。何か考えているような顔をしていましたが、何も考えていませんでした。俺はもう、疲れ果てていたのです。合流した知り合いと駅周辺を少し歩いたのですが、既に日付が変わるような時間であまり良い飲み屋もなかったため、ホテルに近い魚民に入りました。わざわざ旅先で魚民に入るのもどうかな、と思ったのですが、この魚民は逆に都内ではお目にかかれない変な魚民だったので入りました。

 城じゃん!この魚民、城じゃん!!!と言いながら中に入りました。中は普通の魚民でした。何を話したのかは例によってあまり覚えていませんが、ビールとホッピーを飲んだ覚えがあります。疲れでガンガンに効いて少ない量でそこそこ酔えました。オトクでした。

ホテルに戻ると、同室のおじさんがシャワーを浴びた事により臭気が消えており一安心しました。ドアを開けるとドアの目の前の床でおじさんが寝ていたので、少しびっくりしながらも、起こさないように静かに入ったつもりだったのですが、結局起こしてしまいました。結局起こしてしまったもんは仕方ねぇ、という事で俺はダイソーのワインを再び飲み始めました。

結局就寝したのは午前4時半くらいだったと思います。その間、俺は「工藤遥とはなんぞや」みたいな話を一時間以上ずっとし続けたんだと思います。同室の方は真面目な方なのでものすごく真剣に俺の話を聞いてくれたのですが、おそらく俺は完全に適当に喋っていたと思うので申し訳ない気持ちです。確か「工藤遥っていうのはつまり、俺に生きる意味をくれた人なんですよね」みたいな事を口走ったような気がします。完全にそう思わないワケではないのですが、99%その場の思いつきです。この場を借りてお詫びします。

 地獄の二日酔いが襲う水戸

別に自慢ではないのですが、俺は二日酔いをあまりしない方で、朝まで飲んでいても3時間ほど寝られればほとんど酒が残る事はないのですが、この日は久々に二日酔いになりました。ダイソーのワイン、恐るべし。酒に強いとか弱いとか関係ない。アルコールとは別の薬物による体調不良を誘発して来ます。完全に劇薬。ともかく、完全に二日酔いだったので、ダラダラとイベント開始時間くらいに水戸の握手会場に辿り着き、トーク会をやっている最中にメシを食いました。日替わり定食を頼んだらご飯おかわり自由だったので大盛りでご飯をおかわりしました。二日酔いに慣れていないのでどうすればいいのかわからず「とにかくメシを食ってれば治るだろう」と思ったのですが、メシを食ったら気持ち悪くなりました。勉強になりました。あまりに二日酔いだったので、工藤遥さんとの握手で思わず「いやー、ちょっと二日酔いなんですよー」と言ってしまいました。特に何も考えずに言ってしまいました。まだ夢の中にいる気分だったし、二日酔いだったからです。工藤さんは「でしょうね!」とお答えになられました。「すいません、今日も1日頑張ります」と俺はそれに答え「頑張れー!」と言われました。「頑張れー」って言い方可愛かったし、一応日本語の会話として成立しているので俺の中ではそこそこ良い握手なのですが、この様子を見ていた知り合いには「いや!だから雑に扱われすぎでしょ!あんなに雑な頑張れはじめて見ましたよ!」と言われました。どうやら、俺は雑に扱われ過ぎていて、何が雑で何が雑ではないのか分からなくなっているようです。自分ではすごく普通だと思っているのですが。でも、雑じゃなく扱われたらドキドキして心臓が飛び出すかもしれないし、二日酔いだからドキドキしたら普通に嘔吐しちゃうかもしれないし、雑に扱われて良かったな、と思いました(思っていません)

知り合いの「Gさん」という方が「地元だから」という理由でたくさんCDを買ってたくさん握手をしていたので応援しました。あ、ちなみにこのブログでは工藤遥以外の個人名は極力出さないようにしているのですが、俺が尊敬している「漢」の方の個人名は出していく、という方針を取っています。(取っていますが、許可なく個人名を出して怒られたのでイニシャルにします)Gさんは性別は女性ですが漢に性別など関係ないのです。Gさんは「握手は何を話していいかわからないから苦手」と自身で言っているにも関わらず「地元に工藤遥が来てくれたというテンション」でたくさん買ってしまう、という真の漢買いをしていたのでこれはもう応援せざるを得なかった。同じ握手弱者として。漢には絶対に退けない時がある。「握手の応援」って一体なんなのか、俺にもよく分からないのですが、握手しているのを見守りながら「Gー!イケルぞーー!勝てるぞーー!」「前のヤツめちゃめちゃ剥がされてるよー!粘ってるよ前のヤツー!前のヤツ身体が斜めになるくらい肩をグイっとやられてるよー!」などと言っていたような気がします。俺は自分が矢面に立つと何も言えないのですが、客席からのガヤならなんでも言える、という事が判明しました。漢から程遠い人間です。とはいえ、空気が悪くなるような事は言った覚えがなく、なんとなく工藤さんも笑って(苦笑かもしれませんが)いたような気がするので、良かったな、と思いました。今まで何度か「ループしている人を応援する」というのをやった事があるのですが、声援にステージ上で答えてくれたのはGさんがはじめてです。流石俺の認めた漢です。「イケルぞG!」みたいな煽りに対して「もう自分が何やってるのか分からない!」と答えており、俺は爆笑しました。周りも爆笑しました。近くにいた知らない人も笑っていました。真の漢はみんなを笑顔にするのです。ループから帰ってきた勇者Gに何を話したか聞いてみたら「何も覚えていない」と言っていました。おそらく俺がループしたら俺もこうなるだろうな、と思いました。

冷たい雨が降りしきる柏の葉

勇者に別れを告げて、俺達はまた次の目的地を目指しました。工藤遥さん単独での握手会では最後になる千葉県の柏の葉キャンパスという場所です。1時間ほどの移動で到着してしまいました。外は雨が振り始めていたのですが、野外会場でした。疲れ果てたオタクに降り注ぐ冷たい雨。まあ、別に俺達の事はどうでもいいのですが、工藤遥さんが心配でした。俺なんて、もとよりいつ死んでも良いハルちゃん冒険団の鉄砲玉です。雨で風邪を引くくらいどうってことないのですが、親分の工藤遥も基本的には同じ行程を辿っているのです。実際、工藤さんは1週間後に体調不良で休んでおられました。この日のダメージが大いに関係あると思われます。ウチの団長に風邪引かせてんじゃねぇぞ!雨には俺がふんどし一丁で打たれてやるから団長にはなんかモコモコした服着せてくれや!頼むでしかし!と思いました。握手の内容はあんまり覚えていませんが、「お疲れ様でしたー!」みたいなヤツだったと思います。最後の握手で「二日酔い治ってきたんで酒飲み行きますー!お疲れ様でした!」と言ったら「池袋は!?」と言われたので「俺こっから家近いんで飲み行きます!」と言いました。爽やかな笑顔で言いました。工藤さんはもはや苦笑いすることすらせず、スッと次の人を見ました。いつも何も考えていないから、こうなってしまうのです。こんな事しか言わないから雑に扱われるんだと思います。自業自得としか言いようがありません。

その後は雨に打たれながらうっかり大量にCDを買ってしまった知り合いを応援しました。知り合いはCDを50枚くらい買っていたのですが「こんなに買ったら明日からご飯食べられない・・・」と言っていたし「こんなに何話せばいいんだろう・・・」と言っていたし、面白かったので応援しました。後から聞いたらすっげー良い話をまとめ出しでしていて申し訳なくなったのですが、俺はそんな事露知らず相変わらず「イケルぞー!足止めるなー!休むと逆にツラクなるぞー!」「脇腹痛いの!?なんで!?」「明日から何も食べられないけどやったぞー!勝てるぞー!」などと言いました。重ね重ね申し訳ないです。知り合いとまとめ出しで話している時の工藤遥さんの表情は、俺の知っているそれとは全然違って、凄く優しい顔で笑っていました。俺もいつかはあんな表情が見たいな、見れないのかな、見れないんだろうな、などとショッピングモールの中庭で雨に打たれながらボンヤリ思いつつウィスキーを飲んでいました。

それから

 池袋で最後の握手会を行う工藤遥さんを見送って、俺は宣言通り飲みに行きました。柏の葉キャンパス駅周辺で飲み屋を探したのですが、適当な所が見つからず、結局魚民に入りました。2日連続魚民。全国同時魚民飲み会かよ、と思いましたが、田舎の魚民は人がいなくて非常に良い。なんせ寝っ転がって酒が飲めるほどスカスカ。マジでスカスカ。なんだかんだで6時間くらい酒を飲んでいたのですが、全然何を話したのか覚えていません。なんだか凄く楽しかったような気がします。俺の本現場はやっぱり酒場なのかもしれません。

それからのそれから

 柏の葉キャンパスとかいう所で終電間近まで飲んでしまい、地元に着いたら家に帰るバスがなくなっていました。初冬の冷たい雨は雨脚を強めていましたが、俺は傘もささずに歩いて帰る事にしました。そうしたかったのです。前日から続く白昼夢はまだ終わりません。酔っ払ってフラフラする頭で工藤遥さんの事を考えるのですが、もう工藤遥さんの顔すらマトモに思い出せないのです。全てが夢の中の出来事のようでした。降りしきる雨がコーチジャケットを濡らし、深くかぶったパーカーのフードに染み込み、俺の体温を着実に奪っていく、その事だけが現実として押し寄せて来ました。ずぶ濡れのリュックからウィスキーの小瓶を取り出し、それを飲みながら、家まで40分歩きました。

 

「オタクは推しメンに似る」というのはアイドル現場に昔からある冗談めかした古い格言ですが、しかしこれはあながち間違ってもいないような気がするのです。工藤遥さんはとにかく真面目な人です。真面目で一生懸命な人です。工藤遥さんのオタクも、真面目で一生懸命に生きている人が多いような気がします。会う度に思うのです「俺も少しは真面目に生きなければなあ」と。そう思わせるほど、みんな真面目に一生懸命生きている。俺が手練れの握手ルーパーにまで「そんなヤツ見たことない」と言われるほど、真面目なオタクの方に「でもそれ逆に凄いよ、あの工藤さんにその扱いされるって」と言われるほど、工藤遥さんに適当な対応を受けるのは、この辺りが原因なような気がするのです。握手の内容とかお金の使い方とか、そういった小手先の理由ではなく「人生を真面目に生きていない」という部分で雑な扱いをされているのではないか、という仮説を立てているのです、俺は今。いや、もちろん、俺の握手の内容はヒドイし、金も使わないし、酔っ払っています。雑に扱われて当然だし、傍から見たら雑に扱われたがっているようにしか見えないでしょう。それは確かにそうなのですが、しかし、もっと大きな理由があるような気がしているのです。俺の贔屓目を抜きにして考えても、工藤遥さんは真面目にお仕事に取り組んでいます。むしろ「初めて来て」「うまく喋れない」ような方にこそ、工藤遥さんは優しく接しています。俺が雑に扱われるのは上手く喋れないからでも、金を使わないからでもないのではないでしょうか。

 

40分、ずぶ濡れになって歩いて、俺はやっとの事で汚い自室に戻りました。気密性が著しく低いせいで外気温とほぼ同じ気温の自室に。ずぶ濡れの上着とTシャツを脱ぎ、寝間着に着替えようとしたのですが、気がつくと俺はパンツ一丁で布団の上に大の字になっていました。身体がポカポカしていたのです。知恵熱も出ていたのです。そのまま俺は寝てしまいました。ずぶ濡れパンツ一丁のまま。ああ、明日からは真面目に生きよう。工藤遥に好かれるために。そう思っていました。

 

湿った布団の上で目覚めたのは翌日の昼過ぎでした。真面目に生きていこうと決意した翌日から。フラフラと起き出して冷蔵庫を開けましたが何も入っていませんでした。近所の小汚い弁当屋に寝間着に上着を羽織っただけの格好で行き、350円の日替わり弁当を注文しました。

「兄ちゃん、何があったか知らねぇけど、元気出しなよ」

ブヨブヨに太った不潔そうな店主はそう言って、唐揚げをひとつをおまけにくれました。白飯はこれでもかというほど盛られており、弁当のフタが閉まっていませんでした。ニタニタと笑う店主に愛想笑いを浮かべて、俺は虚ろな目で弁当を見た。